電子書籍浸透で作家に試練

投稿日時 2010-09-30 09:24:56 | カテゴリ: 総合情報

今年、作家Kirsten Kaschock氏の処女小説「スライト」をニューヨークの出版社に売り込みに回った著作権代理人サラ・エーク氏は、契約は確実と見込んでいた。

主要出版社はこぞって「スライト」をパスした。現在、ミネアポリスの独立系の小規模出版社、コーヒー・ハウス・プレスがこの本の出版を計画している。この出版社による著者への前払い金は約3500ドルと、大手出版社が支払う前払い金のほんの一部に過ぎない。

2001年からジョージア州立大学英語学科で教鞭をとるジェッド・ラスラ氏は「過去10年間かそこらで、エーク氏のプロジェクトほど模範的なケースはなかった」とし、「エーク氏はニューヨークの出版社を見つけるものと思っていた」と述べた。

文芸作家が大手から作品を出版するのは従来でも難しかった。だが、業界の経済モデルを崩壊させつつあるデジタル革命は、文芸作家のキャリアにひときわ大きな影響を及ぼしている。

電子書籍はハードカバー書籍よりはるかに安く価格設定されており、出版社の実入りは少ない。小売り大手が購入するタイトルもより少なくなっており、この結果、米国の文芸作家を何世代にもわたり育ててきた出版社は、新人作家との契約を減らしている。出版に漕ぎ着けた作家の大半も、受け取る前払い金が減少している。

高名な著作権代理人アイラ・シルバーバーグ氏は「前払い金は減り、処女作の出版も減っている」と述べた。

出版社や著作権代理人によると、安価なデジタル音楽のダウンロードによりレコード会社との契約で生計を立てられるバンドの数が減ったように、電子書籍の浸透により、活躍の場を得られる著作権代理人の数も減少するだろう。

マーガレット・アトウッドやジョン・ピプキンの著作を出版するナン・A・タリーズ/ダブルベイのナン・タリーズ社長は「作家を職業にするなら、収入源をもう1つ持つべきだ」と語った。

独立系出版社が有望な文芸作家と契約して市場のたわみを引き締めているが、前払い金は平均1000~5000ドルと、大手出版社が過去において文芸作家の処女小説に支払った5万~10万ドルを大きく下回る。

電子書籍がもたらす新たな市場原理は、作家を苦境に陥れている。例えば、定価28ドルの新刊ハードカバー書籍の場合、売り上げの50%に相当する14ドルを出版社が獲得し、15%の4.20ドルを作家が受け取る。これに対し、12.99ドルの電子書籍の場合、(大半の電子書籍の現在の契約を適用すれば)70%の9.09ドルを出版社が獲得し、25%の2.27ドルを作家が得る。

つまり、作家が電子書籍から得る収入は、ハードカバー書籍で得ていた収入の半分余りとなる。

書籍の売上高は減少している。インターネットが提供する果てなき娯楽が、読書の時間を国民から奪っているのだ。景気の低迷もまた、売上高減少の一因だ。

タリーズ社長は「J・D・サリンジャーやフィリップ・ロスはデビュー時に若者の支援を得たが、今日の作家を支えるべき世代はその役割を果たしていない」と述べた。

書籍業界の市場リサーチャー、アルバート・グレコ氏によると、消費者を対象とする書籍の販売は2008年に16億3000万冊でピークに達し、今年は14億7000万冊、12年には14億3000万冊に減少する見通しだ。

一方、電子書籍の販売は急激に伸びている。書籍全体の売上高に占める電子書籍の割合は推定8%で1年前の3~5%から上昇している。出版コンサルタントのマイク・シャツキン氏は、12年末までに、書籍全体の売上高に占める電子書籍の割合は20~25%になると推定する。グレコ氏は「いずれは電子書籍が現物の書籍を上回るだろう」との見方を示す。

書籍業界の一部専門家は、低価格の電子書籍がいずれ、全体の販売を押し上げる可能性がある、と指摘する。しかし、ハードカバー書籍から得ていた売上高の損失を電子書籍が補えるかどうかは現時点では不明だ。

電子書籍はまだ黎明期にあるが、出版社によると、文芸作家への平均的な前払い金はすでに減少している。

処女作をめぐり出版社が争奪戦を展開する幸運な作家も現われよう。しかし、ニューヨークの著作権代理人アダム・クロミー氏によると、5年前なら多額の前払い金が支払われていたような文芸作品でも、今日支払われるのは1万5000ドル、もしくはこれを下回る水準という。

電子書籍は一部の関係者にとっては都合が良い。著名な作家の小説や、商業色の強い小説の需要は増加している。電子書籍の読み手が派手なプロットのベストセラー小説を選好する傾向にあるためだ。

著作権代理人によると、従来の書店では、顧客がテーブルに置かれている見慣れぬ書籍を目にする可能性があるが、電子書店は、読者が見知らぬ作家を発見するようには構築されていない。これまでのところ、デジタル市場では多額のマーケティング予算を付けられた著名な作家が最も大きな成功を収めている。

オンライン小売り大手アマゾン・ドット・コムは7月、「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」などの著書で有名なスウェーデン作家の故スティーグ・ラーソン氏が電子書籍端末「キンドル」で100万冊以上を売り上げた最初の作家になったと発表した。

ニューヨークの著作権代理人のローレンス・カーシュバウム氏は「出版社と作家にとって、大ベストセラーは依然として利益の大きな源泉であり、また、こうした本がまさに電子書籍の読者に購入されている」と述べた。

フィクション作家と、印刷冊数が1万程度しか見込めない商業的可能性の小さい作家とを同列に並べることはできないが、カーシュバウム氏によると、田舎生活を描いたような処女小説の売り込みは難しい。

文芸作家はかつて、編集者の忍耐の下でキャリアを積み重ねることができた。しかし、現在では、ストーリーテリングの技法が本を出すにつれて上達することが見込まれる新人作家であっても、多くの編集者は関わろうとしないという。

カーシュバウム氏は「アン・タイラーやエルモア・レオナルドは沸騰するまで長いこと煮立てる必要があった。現在の出版社は、小さな成功の繰り返しには飽き足らない」とし、「才能が失われる危機に直面している」と警告した。-ウォール・ストリート・ジャーナル




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